October 2010
     

  「余裕」 YUTORI  
 

涼しくなりましたね。
 長く暑い夏がやっと終わりました。
  皆様、ほっとしていらっしゃるのではないでしょうか。

 
 




 
 
 私、9月は駆け足、ダッシュ、ダッシュでした。
 NHKの土曜時代劇をクランクインに向けて執筆。
 そんな合間を縫って、韓国・ソウルで開かれたアジアドラマ会議に出席して来ました。 中国は北京、上海、香港、そして台湾、シンガポ-ル、タイ、韓国、日本の作家たちが 集い、各国の代表作を上映し、皆でディスカッションする。
 アジア発信で世界に向けて、どうドラマを制作して行くか・・。
 各々、率直な意見、質問、感想などが交わされます。
 お国柄の出ている個性的な魅力溢れる作品、また、普遍的なドラマあり・・。
 大変、勉強になり、刺激になる会議です。
 会議の進行役はチャングムで王妃役をしていた女優さんで、大学の教授でもある方。
 美しく、そして知的で、その司会、進行はとてもよかったです。
 ソウルは去年に続いて二度目。
 去年はホテルにカンヅメ状態で、ソウルの空気を全然吸えず・・。
 今年は、束の間の時間をホテル周辺ではありましたが、散策出来ました。
 ハングル文字の看板だと私たちには何も分からない。
 たぶん、ここは焼き肉屋さんだね(昼間で閉まっていたので)、とか、匂いや在りようで推測。
 私の知っている韓国語は「アンニョンハセヨ」「カムサハムニダ」「サランヘヨ」「アジョシ」「チョギヨ」「オモニ」「アボジ」「ハルモニ」・・・くらい。
 それでも、居酒屋さんに行って、おじさんに「アジョシ、カムサハムニダ」(おじさん、ありがとう)と笑顔で伝えれば、おじさんはサ-ビス満点。
 何をして頂いても「カムサハムニダ」(ありがとう)。
 もちろん、笑顔で。
 これは、きっと万国共通のグッド・コミュニケ-ションですね。

 20年くらい前に、夫の駐在で米国・シカゴにいたことがあります。
 その頃、私たちは郊外に住んでいたのですが、私は週一回、ダウンタウンにある日系人の高齢者のデイケア施設にボランティアに通っていました。
 一時間のロンクウェイドライブ。
 私たちが暮らす安全な郊外とは違って、随分、危険な地域でした。
 発砲事件や、ドラッグストアへの強盗事件などが日常に起きていた。
 そのデイケアには、日系人だけでなく白人、黒人、アジア人、様々な人種の高齢者がいらっしゃいました。
 そんな中で、英語が堪能でない私は、コミュニケ-ションがほとんど英語でとれない。片言だけでした。それでも、ある白人の90歳のご婦人、ミセス・ポ-タ-。脚があまりよくなくてウォ-カ-を使わないと歩けませんでした。その方のお世話をよくさせて頂いていた時のこと。
 私が、遠くから見ていて、あっ、今、彼女は席を立ちたいな・・と気づくとすぐにその歩行器を持って行く。そんな瞬間、瞬間を察知出来るようになった頃のこと。
 「You can read my mind」
 ミセス・ポ-タ-にそう言われました。
 片言の英語では、歯がゆいほど、通じなくて・・ボランティアとして情けなかった私ですが、そう言われた時はありがたかったです。
 よく見ていると、その方の思いが感じ取れる時がある。
 言葉が通じない分、想像力で補う。
 そして、笑顔、微笑み、表情、また、触って伝える。
 私が帰国するお別れの時、その方がきっと大切に長く使ってらしたに違いない美しいネックレスを下さいました。
 何より、そのお顔とお別れのハグは忘れられません。

 アメリカにいた時は、時間がゆっくりと流れていて・・心にゆとりがありました。
 そして、日本に帰国して・・

 初めのうちは東京タイムに慣れなくて
 地下鉄に乗って、打ち合わせに行く時に駅で迷っているご婦人に遇いました。
 お年は70~80歳くらいでしょうか?
 私は声をかけて、結局、その方の行かれるところまでついて行ったことがあります。
 打ち合わせにぎりぎり遅刻はしなかったけれど・・
 そういうことが出来たのは、私の中でまだシカゴタイムが流れていたから。

 そのうちにどんどん東京タイムになって来て・・
 おそらく、ほとんど、自分のことしか見えていない。
 (皆さんの中にはそうでない方もいらっしゃるでしょう)

 目的地にぎりぎりの時間設定で出かけるから
 途中の「何か」に心を配れない。
 ちょっとした「心」を遣うことで、誰かが助かる、ホッとする・・
 そういうゆとりがない。

 先週末、京都で30年ぶりの大学の同窓会がありました。
 懐かしい顔が並び
 それぞれに30年という長い時間が流れ
 いろんなことがあったろうに・・
 人の「素」の部分は変わらない。
 それは懐かしく、楽しい時間を過ごすことが出来ました。

 翌朝は早起きして、大学時代から好きだった「イノダ・コ-ヒ-」の本店へ。
 鳥のさえずりが聞こえる、明治のレンガ造りの建物の中
 美味しいコ-ヒ-を頂きました。

 そして、東京へ。
 これまた連日は偶然ですが・・、高校時代の友人の50過ぎての「ピアノの初リサイタル」へ。
 「勇気を持って一歩を踏み出した」彼女の素晴らしい演奏を聴きました。
 生きて来た人生の長さ、深さが表現に乗り、私の魂に響いて来ました。
 闘病生活を越えて、元気な笑顔を見せてくれた友人も聴きに来ていました。
 今、ここに私たちは生きて、一緒に音楽を楽しんでいる。
 そのことにも感動し、感謝しました。
 何より、彼女のメッセ-ジが素敵でした。
「もし何か大切なものを失いかけている人、何かの理由でそれを手放してしまった人がいたら、どうぞあきらめないで」

 その日の夜はダブルヘッタ-。
 秋本奈緒美さんの楽しい楽しいライブへ娘と繰り出しました。
 女優さん、三人で結成したユニットで、笑いあり涙ありのあっという間の二時間。
 特に、ステ-ジに現れた時の秋本さんの美しさには息を飲みました。
 そして、ミュ-ジカル「小公女セ-ラ」のミンチン先生の歌とセリフには涙し、そのミュ-ジカルの素晴らしさをかいま見ることが出来ました。
 この三方も「勇気ある一歩」を踏み出した方々です。
 そして、本人たちがとても楽しそう。
 大変、エンタ-ティメント性の高いライブでした。大満喫。

 連日の楽しさ、感動満載のイベントを終え
 翌日は執筆へ。
 さて・・その夜もまた、一カ月に一度の我が家の催事があり・・。
 「菜食会」です。
 恵那から片桐留美さんを招き、野菜だけのお料理を作って頂いて仲間で集まる。
 楽しい宴です。
 私は仕事を切り上げて、仕事場から自宅に向かっていました。
 その日、初めていらっしゃるお客様をお迎えするためにせっせと歩いていました。

 すると・・
 スイミングスク-ルのあるプ-ルの前に差しかかった時。
 (時刻は6時を過ぎてもう完全に日暮れていました)
 プ-ルの建物から少し先の電柱の側で泣いている男の子がいる。
 「どうしたの?」
 と声をかけても泣いている。
 「お母さん、お迎えに来ないの?」
 「お母さん、迎えに来ない。僕、一人で帰る」としゃくりあげる。
 行きはスイミングスク-ルのバスで来たけど、帰りは分からない・・。
 「神木本町に行けば分かる」と言います。
 私がそこまで送って行ってあげたいけれど、私も「神木本町」が何処なのか分からない。困ったな・・・。
 「じゃ、スイミングスク-ルまで行こう」
 「行かない。神木本町まで行けば分かる」
 お母さんに聞きたかったけど、お仕事だったので、聞けなかったと泣いています。
 そうだったんだ・・。
 たぶん、小学校低学年だと思います。
 明るいうちならともかく、こんなに暗くなってからは本当に心細いと思う。
 私は結局、スイミングスク-ルに行って、先生に話しました。
 そうすると、すぐに先生がその男の子のところに来て下さり、
 「大丈夫だよ」と優しく声をかけて下さった。
 あとはお任せして・・私は帰路へ戻りました。
 そのとたん、初ゲストから「早く着いちゃいました。今、駅です」と電話あり。
 「ああ、私、今、家に向かってます・・・」
 急いで帰りました。

 私も小さい頃、よく迷子になった・・・。
 京都に住んでいて、嵯峨野の家から上賀茂のおばあちゃんの家までバスに乗って行く。 その時に、おそらく降りる駅が分からず、終点まで行ってしまって・・
 やさしいお姉さんにおばあちゃんの家まで送ってもらったことがあります。

 スイミングスク-ルの坊やは、いったいいつから泣いていたのだろう?
 私が通りがかるまで、誰も通らなかったのかしら?
 通りがかれば、大人は声をかけたと思います。
 ただ、ほんの少し離れたところに、他の子供たちとお母さんが二三名いたのです。
 彼女たちは気づかなかったのかな?
 男の子が一人で泣いているのが見えなかった?聞こえなかった?


 ゆとりがなくても優しくありたい。
 でも、中々、人はゆとりがない時にはやさしくなれない時がある。

 何かで忙しすぎたり
 自分の心がいっぱいいっぱいだったり
 心にゆとりがないと思わず人を傷つける言葉を吐いてしまったり
 扉一つ閉めるにも荒々しくなったり

 ゆとりがある生き方をしたいです。

 そんな時、チベット体操はおすすめ。
 穏やかになります。
 心がゆったりします。

 エネルギ-が高まり、ものごとがいつもよりスム-ズに片づく。
 その分、ゆとりが生まれる。

 チベット体操をすると、ゆとりある自分になって行く。
 瞑想もそうですね。

 自分と向き合う。
 自分とつながる。
 そうすると、時空にゆとりが現れる。
 その中にぽっかりと気持ちよく浮かんでいられる。

 暑さが過ぎ去ったこれからの季節
 ゆとりのある「秋」を生きたいですね。

 さあ、涼しくなったらやろう!
 なんて思っていたことをどんどんやってみましょう。

 何と・・長々と書いてしまいました。
 ここまで読んで下さってありがとうございました。

 では、今月もお元気で!


  
 
   

追伸)お知らせです。



 10月23日(土)9時~10時13分
 NHK「土曜ドラマ」にてスペシャルドラマ「手のひらのメモ」
 放送します。
 裁判員裁判のドラマです。
 専業主婦が裁判員に選ばれ、キャリアウ-マンのシングルマザ-が子供を死なせた事件 についての裁判を体験する。「私の手のひらにこの人の人生の何分の一かが載っている ・・・」主人公の葛藤と彼女自身の気づき、祈りを描きました。
 どうぞ、ご覧下さいませ。




 
  2010年10月   梶本恵美